人を始め、動物のいわゆる‘皮膚’(表皮)は、常につくり変わります。そのサイクルは、犬では人より早く、約3週間。そう、皮膚は「生まれかわる」んです。

 皮膚は唯一、からだの外側から「見て」「触れる」ことができる、脳や心臓と同じ「臓器」です。そして、その症状も同じく、赤みやブツブツ・傷など、「見て」「触る」ことができます。さらに、「痒み」や「痛み」など、生活の中での「行動」などの情報が、病気の判断の大半を占めています。

 「傷」や「痒み」、様々な「症状」を伴う、「病気」。それには、必ず、なにかの理由「原因」があります。
 「見て」「観察した」情報をもとに、原因を推測し、必要ならば裏付けて明らかにする。そうすることで、治療への道は開かれます

 ひと口に「皮膚病」といっても、それはもう途方もないほどの病名があります。そして、そのひとつひとつに、それぞれの「症状」と「理由」があります。それは、たとえば「細菌」や「カビ」など外側からによるものだったり、「食べ物アレルギー」や「アトピー性皮膚炎」など、体の内側、あるいは体質によるものだったり。
 そう、黒幕は、唯一の大魔王ではありません。世に出回っている食べ物など、すべてが毒にまみれ病気を引き起こすものである…世の中はそんなに夢も希望もないものじゃぁありません。

 諸悪の根源がひとつでないのと同じく、その治療法もしかり。全()全能の神もいませんし、仙豆も万能薬もエリクサーもありません(もしあったとしたら、ぜひ欲しい)。それぞれの病気に対してそれぞれの治療があり、適切な処置を組みあわせることで、治療をしてきます。”これさえ食べれば、もう大丈夫!”…究極の理想ですが、現時点ではそんなミラクルはないと思います。

 皮膚は再生する力があります。ケガや病気になっても、適切な処置をすれば元通りになるはず。
 その目安は、ケガなら1週間、皮膚病なら3週間。それ以上たっても何の改善もないとしたら、それは、一度見直しが必要なのかもしれません。

 「病気」には現時点で「治る」ものと、「治らない」もの、があります。前者の多くは、外側からの原因に一時的に侵されたことによる結果(例:感染症など)。対して後者は、もって生まれた体質や反応性によるもの(例:アトピーなど)です。
 決定的な違いは、「治療を終えることができる」かどうか。願わくば、薬を使わず、食べ物や生活習慣で改善したい。けど、だからと言って、「治療をしない」という選択は、自分から手も声も上げられない動物たちに対しては、大げさに言うなら苦痛を強いる「放置」「拷問」と同等でしょう。

 病気には、治療。とは言え、僕ら獣医師だって、できれば薬を減らしたい、使いたくないものです。これ、本当に。では、何ができるのか。それが、「栄養」と「スキンケア」です。
 皮膚は、「レンガ」と「モルタル」のような仕組みで出来上がっています。そして、そのほとんどが「タンパク質」からできています。特に、仔犬から成犬までの成長期には、十分な栄養が必要です。‘太りすぎちゃうから…’と言って十分な栄養を摂れないと、いつまでたっても病気はよくなりません。さらに、アレルギーなどの場合は、量だけでなく、その‘質’も考えていく必要があります。適切な「量」と「質」を摂ることそのものが「治療」でもあります。
 また、皮膚は体の外側にあります。内側からの栄養だけでなく、直接必要なものを補うことができるんです。皆さん、手や顔を洗ったら、どうしますか?スキンケア、しますよね?それは、動物もまったく同じなんです

 ‘スキンケアしろって言われたけど…’。ですよね。「毎日、シャンプーしてあげてください」。これって、ある意味すごく無責任で脅迫的。もし僕が言われたら、泣いちゃうかも。たしかに、病気によってはそうしてあげたいかもしれませんが、ねぇ…。ほかにできることはないのか?実は、たくさんあります。その中でも、「保湿」は、比較的簡単で、最重要。皆さんも顔や手を洗ったら、保湿剤をつけますよね。動物用には、ローションだけでなく、スプレーや泡フォームなど、種類も形状もさまざま。お散歩前に、スキンシップがてらに、毎日のちょっとしたことで、見ちがえるようによくなります。皆さんの手で、幸せにできちゃうかも。

 人と動物の診療で決定的な違い、それは、「自分の意志で診療を受けるかどうか」です。
 人ではたいていの場合、具合が悪くなれば自分から病院に行って治療を受けますが、動物はどうでしょう。たまーにいますけどね、喜んで病院に入ってくる子。病院に連れてくるのは、飼い主さんです。それを診察して治療するのは獣医師です。そこから治療を続けていくのは、飼い主さんと獣医の共同作業になります。「このお薬飲ませといて。」それだけで獣医の仕事が済むんだったら、なんでこんなに皮膚病でお悩みの方がいるのでしょう…。
 「診察-治療-スキンケア」この連携ができてはじめて、健康でいられるのです。

 人も動物も、生まれながらに何かを持っていますよね。体質であったり病気であったり。共通のことがあり、違うことがあります。「こんなはずではなかった」「この子だけ、なぜ」「うちの子は、ちがう」。とらわれてしまうと、道を見失ってしまうかもしれません。知識は大事ですが、重要なのはそれをどう使って、どうするのか。「知恵」。治療をしないでいつまでも痒いまま…そんな生涯、お互いにつらいですよね。
 「動物も飼い主さんも幸せ」
それが僕らの願い。一緒に、取り組ませてください。

 皮膚病の診療は、「視診」と「問診」が大半。「視診」は指定の部位・方法の写真からおおよその状態が把握できますし、「問診」も文章で可能です。技術の発展により、離れていてもコミュニケーションが可能になりました。
 病院は、「遠い」「敷居の高い」ものではありません。あきらめるのは、最後でいいのです。